国際税務の分野で、近時、問題とされたケースを取り上げています。
該当はないでしょうか。 リスクチェックをしてみましょう。

進出先国で
移転価格課税
日本親会社と、新興国所在子会社との間の取引について、つぎのような場合にご注意ください。
進出先国における移転価格税制の適用により、追徴課税を受ける場合があります。

  • 機能リスク限定会社の赤字
    日本親会社の受託生産に従事する製造子会社の欠損事業年度について、リスクや機能が限定的な
    事業に従事する会社(「単一機能会社」)であれば一定の利益水準を保てないはずはない、
    という考えから、親会社に利益が出るよう取引価格が調整されていると判断され、一定の
    利益水準の確保を求められた。

  • R&D子会社の利益水準確保
    R&D子会社がハイテク企業としての認定を受けることにより優遇税制の適用を受けている場合、
    R&D子会社は単なる受託研究開発先ではなく、コアとなる知的財産権を保有しているとして、
    一定の利益水準の確保を求められた。

  • ロケーション・セービング、マーケット・プレミアムの帰属
    メーカーが、人件費の安い国に製造子会社を設立して労働集約型製造活動に従事することにより
    生じるコスト削減効果による利益(「ロケーション・セービング」)は、全て製造地国の
    子会社側に帰属するとして、移転価格調査において対応する利益水準の子会社における確保を
    求められた。
    新興国子会社との取引について、旺盛な消費活動や、市場規模の大きさといった市場の
    特殊性により生じる利益(「マーケット・プレミアム」)は、全て新興国の子会社側に帰属する
    として、移転価格調査において相応の利益水準の子会社における確保を求められた。

  • マーケティング無形資産形成への貢献
    販社が、進出先国に販売子会社を設立してその国での販売活動に従事する場合に、本国本社 による既存の取引関係やマーケティング先リストの提供、優位性のある物流ノウハウの提供や
    管理ソフトの開発等にもかかわらず、進出先国におけるローカルな商習慣への適合という点で
    販売子会社は製品の販路拡大に貢献したとして、移転価格調査において、超過利益の一部の
    子会社への帰属を求められた。

損金算入の否認
親会社の新興国所在子会社に対する無形資産のライセンス取引について、
次のような場合にご注意ください。
日本と現地国とで二重課税が生じることになります。

  • ロイヤルティの損金算入否認
    技術や商標等、無形資産のライセンスは、追加的な利益を生むものであり、ロイヤルティは、
    その対価の支払である、という考えから、無形資産のライセンシーが充分な利益水準を確保
    できていない場合や赤字である場合、ロイヤルティの損金算入が否認されることがあります。
    また、ロイヤルティ料率について、外貨管理実務上・課税実務上の上限があり、実務上の上限を
    超える部分は送金できず、損金算入も認められないことがあります。

PE課税
PE(Permanent Establishment、恒久的施設)とは、事業を行う一定の場所で、支店や工場が
その代表例です。
事業に関する所得については、進出先国において「PEなければ課税なし」とされることが
原則ですが、新興国においては、PEについて広く解釈・認定される傾向があり、次のような場合、
PE認定とこれに伴う事業所得課税がなされることがあります。

  • 駐在員事務所
    情報収集を目的とし、営業活動を行わない駐在員事務所であるにもかかわらず、経費に基づき
    収入が推計された。

  • 出向者
    親会社から進出先国子会社への出向者に関し、出向者は親会社の事業を行っているものであると
    したうえ、子会社が外国送金して親会社に支払う出向者についての親会社立替え費用について、
    親会社からの出向者による子会社に対する人的役務提供の対価であるとされた。

  • 長期人的役務の提供
    日本から出張者を派遣しての技術援助について、派遣先国における出張者の滞在日数の
    カウントの方法によって一定期間の滞在が認定された。
    これにより、租税条約に基づく短期滞在者免税が認めらず、また親会社のPEを構成すると
    認定された。


日本で
移転価格課税
エレクトロニクス関連製品のメーカーである日本法人が、製品の開発・製造を行う外国の
100%子会社から業務委託を受けて有償で開発した製造技術(外国子会社に帰属する製造技術)
について、これを利用して製品を製造販売したことにより外国子会社に使用料を支払う取引に
ついて、課税庁より、本来日本法人が所有すべき製造技術を外国子会社に移すことにより本来日本で
得られるはずの使用料収入を日本で得ず、法人税率の低い外国子会社に所得移転してグループ全体
として課税を逃れたとして、移転価格税制が適用され追徴課税を受けました。
(2013年6月26日付新聞報道、企業プレスリリース参照)

包括的租税回避否認規定の適用
取引に経済合理性や事業上の必要性がない場合や、あったとしても、税制の趣旨・目的に反する
ことが明らかである場合には、包括的租税回避否認規定の適用により不当な処理として否認される
可能性があります。

米国に本社を置く音楽会社の日本法人が、組織再編に伴い、海外のグループ関連企業から多額の
借り入れを行い支払った利子を損金として計上した処理について、課税庁により、必要のない
再編のための資金借入及び利子支払いにより、海外に所得を移した租税回避行為にあたるとされ、
包括的租税回避否認規定(法人税法132条)の適用により、支払利子の損金算入が否認されました。
(2012年7月16日付各紙新聞報道)

タックスヘイブン対策税制による合算課税
タックスヘイブン対策税制は、特定外国子会社等に所得を留保することにより日本の課税を逃れる
ことを防止することを制度の目的とすることから、特定外国子会社等が独立企業としての実体を
備え、その地で事業活動を行うことにつき十分な経済合理性があると認められる等一定の要件に
該当する場合(「適用除外要件」)、合算課税はなされません。

しかし、香港子会社による中国華南における来料加工工場の運営については、香港会社の主たる
事業は卸売業ではなく製造業であるとの認定を受けたことにより、これにより適用除外要件の
一つである「管理支配基準」(その特定外国子会社等が、その本店等の所在する国又は地域に
おいて、その事業の管理・支配及び運営を、自ら行っていること。)を満たさない(製造業
である香港子会社の製造事業場所である工場は、香港子会社の本店所在地である香港にはなく、
中国にある。)と判定され、香港子会社の留保金についてタックスヘイブン対策税制の適用による
合算課税を受けるケースが見受けられます。

租税条約による所得源泉地判定基準の置き換えと源泉徴収の処理誤り
二国間の租税条約の規定により、国内法に基づく課税関係が修正を受ける場合があります。
例えば、日本とインドとの間の租税条約は「技術上の役務に対する料金」に関し規定し、
ソフトウエア開発に係る所得の源泉地国の決定については、開発役務の提供があった国ではなく、
対価の支払を行った者の居住地国とすることとしています。

これにより、日本法人がインド法人にソフトウエア開発を依頼した場合において、作業が全て
インドにおいて行われ、インド法人の技術者等は一切来日せず、連絡も全て電話やメール等で
行われた場合、日本法人からインド法人に支払われるソフトウエア開発の対価に係る
インド法人の所得は、日印租税条約のこの規定に基づき、実際に支払いを行う日本企業の
居住地国である日本が所得の源泉地とされ、日本において課税がなされます。

二国間条約の特別な規定により国内法に基づく源泉地の判断基準が置き換えられたものですが、
この場合、日本法人には、対価送金時に源泉徴収義務があることに注意が必要です。
(なお、インド法人は日本で法人税の申告をしなければなりません)

もともとインドの課税権確保への配慮から、技術サービスの輸出国であった日本ではなく、
サービスの対価を支払うインド側の課税権が確保されるよう、このような条約の規定とされたものと
考えられますが、条約改正時にも、源泉徴収税率は低減されたものの、所得源泉地の判定基準は
そのままとされました。
インドの経済発展が進みIT立国としての地位が確立され、サービス提供の方向が変わりつつある
現在、日本の課税権が確保される結果となったものです。

個人のお客様の国際的な活動に伴い、次のような点で、日本において、
課税庁との間で見解の相違が生じ得ます。

日本国内における「住所」の有無
贈与税の課税範囲は、贈与者と受贈者のそれぞれが、日本国内に住所を有する否か、贈与財産の
所在地が日本国内であるか否かにより異なりますが、ある人の「住所」(生活の本拠)が日本国内に
あるか否かについては、課税庁との間で見解の相違が生じ得ます。

消費者金融大手創業者の長男で同社元専務が、生前贈与を受けた海外資産に対する課税処分を受けた
事案では、元専務の住所が日本国内にあるか否かが争われました。
最高裁判決は、「一定の場所がある者の住所であるか否かは,客観的に生活の本拠たる実体を
具備しているか否かにより決すべきものと解するのが相当である」としつつ、判断に当たっては、
約3年半の期間において、元専務の日本国内滞在日数の割合は26.2%であるのに対し、香港滞在日数
の割合は65.7%であること(残りの約10%は他国滞在。)を重視して、元専務の住所は日本国内に
なかったと判断し、かかる判断はその他の要素(職業や資産の所在等)に左右されないとしています。
(最高裁判所平成23年2月18日第二小法廷判決、納税者敗訴)

また、贈与税の課税処分について、米国ニュージャージー州法に準拠して設定された信託の
受益者(受贈者)である乳幼児の日本国内における住所の有無についてが争点のひとつとされた
事案では、裁判所は、父母の居住状況、父母の就労状況等から、父母の生活の本拠は日本にあった
と認定し、そのうえで、両親に監護養育されていた乳幼児についても生活の本拠は日本にあった、
即ち日本国内に住所があったと判断しています。
(名古屋高等裁判所平成25年4月3日判決、納税者敗訴・確定)

タックスヘイブン対策税制による合算課税
軽課税国に新たに法人を設立し、日本との間を行き来しながらビジネスを展開することも
少なくありませんが、この時、軽課税国で新たに設立した法人が、外国子会社合算税制
(いわゆる「タックスヘイブン対策税制」)の適用除外要件を満たすか否かについては、
課税庁との間で見解の相違が生じ得ます。

特殊精密機械部品メーカーである日本法人の役員で、同社の大株主でもある個人(日本の居住者)
が、シンガポールで法人を設立し(シンガポール法人は個人の「外国関係会社」)、レンタル
オフィスサービスを利用して机1台分のオフィススペース(机、椅子、棚、固定電話を含む)
にパソコンを設置し、総務事務はアウトソーシングすることによって日本法人の製品の販売を
受注発注するビジネスに従事したところ、課税庁が、シンガポール法人はタックスヘイブン対策税制
の適用除外要件のうち、「実体基準」及び「管理支配基準」を満たさないとして、シンガポール法人
の留保金を個人の日本の所得に合算する課税処分をしました。

この事案では、裁判所は、シンガポール法人は、その主たる事業である精密機械部品等の小規模な
卸売業を行うために十分な固定施設を有していたと認められ「実体基準」を満たすこと、
シンガポールにおいて事業を行うために必要な常勤役員及び従業員が存在し、独立した法人として
その事業の管理・支配及び運営を自ら行っていたと認められ「管理支配基準」を満たすことを
それぞれ認定し、適用除外要件を満たすと判断しています。
(東京地方裁判所平成24年10月11日判決、東京高等裁判所平成25年5月29日判決、納税者勝訴・確定)

外国法上の概念の日本租税法上の取扱い
  • 投資ビークルの法人該当性
    外国法に基づき組成された投資ビークルが日本の租税法令にいう法人に該当するか否かに
    ついて、課税庁との間で見解の相違が生じ得ます。
    投資ビークルが法人に該当すると判断された場合、投資ビークルは法人として事業体課税が
    なされ、法人に該当しないと判断された場合は、個々の投資家に対する構成員課税
    (パススルー)とされ、課税関係は異なることになります。

    米国デラウエア州法に基づき設立されたリミテッド・パートナーシップ(LPS)が日本の
    租税法上法人に該当するか否かについては、複数の裁判が係属しています。
    不動産賃貸事業に従事するLPSに生じさせた損失は、LPSが日本の租税法上法人に該当しないと
    判断されれば、個々の投資家の不動産所得の計算上損失とされ、他の所得と損益通算することができます。
    いずれの裁判においても,LPSについて、財産の帰属主体であるか,契約の締結主体であるか、
    訴訟当事者となり得るか、事業損益の帰属主体となるか、といった実質的な基準から
    法人該当性を検討していますが、判断は分かれています。
    (大阪地方裁判所平成22年12月17日判決、大阪高等裁判所平成25年4月25日判決、
    名古屋地方裁判所平成23年12月14日判決、名古屋高等裁判所平成25年1月24日判決、
    東京地方裁判所平成23年7月19日判決、東京高等裁判所平成25年3月13日判決)

  • 金融商品の換金手続
    外国法に基づき外国で発行された社債の換金手続「Redemption」は、日本法上、
    譲渡(事案当時非課税)か、償還(雑所得として課税)かについて、課税庁との
    間で見解の相違が生じ得ます。
    (国税不服審判所平成25年6月19日裁決)

  • 共同名義財産権の帰属者
    共同名義銀行口座(ジョイント・アカウント)の開設・利用、共同名義不動産
    (ジョイント・テナンシー)の取得・維持・譲渡に伴い、財産権の帰属者について、
    課税庁との間で見解の相違が生じ得ます。

    米国ハワイ州法に基づき開設されたジョイント・アカウント預け入れ資金について、相続人が
    生存共同名義人に対し相続分相当額の請求をした民事事件では、米国ハワイ州法に基づけば、
    共同名義人の一が死亡した場合、死亡共同名義人の財産は自動的に他の生存共同名義人が
    取得するとされていること等により、ジョイント・アカウント預け入れ資金は相続の対象と
    されず、日本の課税実務上生存共同名義人が死因贈与によりジョイント・アカウント
    預け入れ資金を取得したと評価することがあるとしても、私法上の被相続人の相続財産を
    構成しない、との判断が示されています。
    (東京地方裁判所平成26年7月8日判決、「週刊T&A Master」No.564号参照)。