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キャスト専門家に聞く ~中国ビジネス最新注目トピックス解説~
「企業再編Q&A」(第1回)

2010.10.22

「企業再編Q&A」
解説:永野 弘子 税理士
聞き手:村尾 龍雄 弁護士・税理士
今般、2010年7月26日に「企業再編に係る企業所得税管理弁法」が公布されましたね。
はい。そのとおりです。
この弁法は、いつからの施行になりますか?
2010年1月1日から施行ですが、2008年、2009年度に実施された企業再編業務で税務処理が未了である場合にはこの弁法の適用を受けることになります。
この弁法の公布はどのような趣旨を持っていますか?
2009年4月30日に企業再編に関する通知※が公布され、2008年1月1日に遡って施行されていますが、その通知においてさまざまな論点について疑義を残す形になっていたので、今般、その一部を氷解するために細則的位置づけとして公布されたのがこの弁法だと理解されます。
※「企業再編業務の企業所得税の処理に係る若干の問題に関する財政部及び国家税務総局の通知」といい、文書番号が“財政[2009]59号”であることから、「59号通知」と通称されることが多い。
59号通知が2009年4月30日に公布され、1年以上前の2008年1月1日に遡って施行されているのはなぜですか?
改正後の企業所得税法が2008年1月1日より施行されているためです。2007年12月31日までは外資及び外国企業向けと内資企業向けの企業所得税がそれぞれ併行して施行されていましたが、2008年1月1日より一本化され、新「企業所得税法」として施行が開始されていますが、新企業所得税施行下での企業再編の一般ルールとして2008年1月1日に遡及しての施行となったものと理解されます。
2008年1月1日から2009年4月30日に59号通知が公布されるまで、企業再編に関する税務処理関連通知は存在しなかったということですか。
はい、そういうことになります。
では、その期間に企業再編を実施した企業は、企業再編にかかる税務をどのように処理していたのでしょうか?
改正前の(旧)「外商投資企業及び外国企業所得税法」のもとで公布・施行されていた企業再編に関する規定※がありましたので、おそらくその規定に基づくしか方法はなかったのではないかと思われます。
※「外商投資企業の合併・分割・出資持分の再編・資産譲渡等の再編業務の所得税の処理に関する暫定規定」(国税発[1997]071号)廃止
「企業再編Q&A」
日本においては企業再編においては、税制適格と税制非適格に区分されますが、中国においても同様に考えていいですか?
はい、中国でも同じように税制適格と税制非適格に区分されます。但し、税制適格は「特殊性税務処理規定」、税制非適格は「一般税務処理規定」と呼ばれています。
企業再編を行う際に、税務が規定する条件に適合する取引(税制適格取引)については税金の繰延べ処理を行う、即ち、通常であれば企業再編によって譲渡益が発生するようなケースでも税制適格であればその取引の発生時点ではその譲渡益を認識しなくてもよいという税務処理になります。企業再編を行う際に税務がその再編の足枷にならないようにという趣旨ですが、その適用は無条件ではありません。
旧規定と59号通知では企業再編に関する税務処理ルールは変更していますか?
大幅に変更されています。旧通知に比べると、税制適格適用条件が非常に厳しくなっているといえます。その点はこれからのQ&Aの中で説明していくことになろうかと思います。
わかりました。それでは話を今回、公布された弁法に戻しますが、この弁法が対象とする企業再編の取引類型は何ですか?
それは、もともとの59号通知が取り扱う取引類型が「企業の法律形式の変更」「債務再編」「持分買収」「資産買収」「合併」「分割」の6つに集約されていることから、59号通知の細則的位置づけである弁法も同じくこの6つの企業類型を取扱い、59号通知で不分明な論点の解明をはかるものです。
「企業再編Q&A」
なるほど、6つの取引類型ですか。ただ、日系企業にとっては6つの取引類型についても重要性に高低があると思われますので、現状、日系企業にとって重要性の高いと思われる取引類型にフォーカスして質問を続けたいと思います。
わかりました。
6つの取引類型のうち、最も多く取引が発生しているのが「持分買収」だと思われますので、これについて質問を続けます。まず、最も基本的なことですが、「持分買収」とはどのような概念ですか?
これについては59号通知の第1条に、「一つの企業(買収企業)が他の一つの企業(被買収企業)の持分を買収し、もって被買収企業に対する支配を実現する取引」と明確に規定されています。
ところでその定義に中の「買収企業」と「被買収企業」が登場しますが、中国国内企業である居住者企業がその範囲に含まれるのは当然ですが、外国企業である非居住者企業も含んでいますか?
はい、含んでいます。
その法文上の手がかりはどこにあるのでしょうか?
59号通知第7条がその根拠法文になります。第7条においては、「企業は中国国内と国外の間にかかわる持分及び資産の買収取引が発生する場合には…」と総括した上で「非居住者企業がその100%直接持分支配する・・・」等々と非居住者企業が関与する持分買収及び資産買収についての条件等が規定されています。
そうですか。そういえば非居住者企業については企業所得税法においても規定があったように記憶していますが?
はい、59号通知及び弁法の上位規定である企業所得税法第3条において「・・・。非居住者企業であって、中国国内において機構又は場所を設立するものは、その設立に係る機構又は場所が取得する中国国内に源泉がある所得及び中国国外において発生するけれどもその設立に係る機構又は場所と実際的関連がある所得について、企業所得税を納付しなければならない。
非居住者企業であって、中国国内において機構及び場所を設立していないもの又は機構若しくは場所を設立しているけれども取得する所得がその設立に係る機構若しくは場所と実際的関連がないものは、中国国内に源泉があるその所得について企業所得税を納付しなければならない。」と規定され、非居住者企業への企業所得税課税が明文化されていることからも非居住者企業が59号通知及びこの弁法にいう「買収企業」に含まれるのは明らかですが、59号通知にいう被買収企業となるケースは現状では稀なケースだと認識されます。
「企業再編Q&A」
確かに、非居住者企業の出資持分又は株式を中国の現地法人が買収するケースは、日本の企業の現状ではあまり見られないケースですね。
はい、現状ではそうだと思います。但し、中国で資金を稼いだ現地法人が逆に日本への逆投資を行うということも将来的には想定されるケースだと思われます。
そうですね。最近の中国企業のトレンドのひとつとして「日本企業買い」があるように、近い将来に中国の日系企業が日本企業の株式を買収することも充分考えられますね。ただ、まだ、そこまでの段階には至っていないと思いますので、ここでは非居住者企業が非買収企業になるケースはとりあえず除外して質問を続けることにします。
わかりました。
ところで、持分買収により出資持分譲渡を行った場合には、原則としてどのような課税関係が発生しますか?
まず、課税関係を整理すると、持分買収を行った際に課税が発生するのは、買収企業へ被買収企業の持分を譲渡した側、即ち、出資持分譲渡の譲渡側になります。
譲渡側が居住者企業と非居住者企業でその課税関係が異なりますか?
はい、異なります。まず譲渡側が居住者企業の場合は、出資持分譲渡によって生じた譲渡益が会計年度の中で課税所得に算入され、原則25%の税率で企業所得税の課税を受けることになります。それに対して非居住者企業が譲渡側となった場合には、その取引によって生じた譲渡益に対して軽減税率10%で企業所得税が課税されます。
居住者企業の25%については了解しました。ところで非居住者企業に適用される10%は軽減税率ということですが、原則税率はいくらですか?
原則税率は20%です。原則税率は企業所得税法第4条で20%と規定されています。
軽減税率はどこに規定されていますか?
企業所得税法実施条例第91条において「非居住者企業が企業所得税法第27条第(5)号所定の所得を取得した場合には、軽減された10パーセントの税率に従い企業所得税を徴収する。」と規定されており、ここでいう企業所得税法第27条第(5)項所定の所得には出資持分譲渡に係る譲渡益も含まれています。
この軽減税率は国内法による規定のみですか?それとも租税条約で限度税率は規定されていないのですか?
日中租税条約には、譲渡所得についての限度税率の規定はありません。使用料や配当所得については、その税率は10%を超えないものとするという規定があり税率に限度が設けられていますが、譲渡所得についてはそのような規定はありません。そのため国内法で規定された軽減税率の適用が廃止された場合には、原則税率20%に戻ることになります。
「企業再編Q&A」
持分買収で譲渡益が発生した場合、原則として税金が課税されることは理解しました。それでは前の質問のときに59号通知及び弁法に規定する税制適格要件を満たす企業再編については譲渡益を認識しないことができると答えてもらいましたが、それは具体的にはどういうことですか?
企業再編を行うにあたり、税務上規定する要件を満たす場合には、企業再編の課程で発生する譲渡益をその再編時点では認識せず、その譲渡益に対する課税を将来に繰延べるということになります。
課税の繰り延べとはどういうことですか?
課税の繰り延べとは、税金の納付時期を将来に持ち越すということであり、課税が免除されるということではありません。確かに譲渡益が発生した時点では課税は発生しませんが、将来的にその対象となった持分を売却した際には過去に課税が繰延べられた部分も譲渡益の一部を構成することになります。
「企業再編Q&A」
それでは、Aから譲渡を受けたBがCに売却することがなければ永遠に課税は発生しないということですか。
理論的にはそうですね。ただ、税制がどのように変更されるかは不明ですので残念ながら永遠というのは保証できません。
ところで、持分買収について企業再編税制に規定する適格要件とはどのような内容ですか。
企業再編に関する適格要件については59号通知に規定されています。その要件は6つの取引に共通する基本要件と各取引ごとの個別要件があります。
共通要件とはどのような内容ですか?
共通要件については59号通知第5条に規定されていますが、ひとつづつ順番にいいますと、
(1)合理的な商業目的を有し、かつ、税額の納付を減少させ、免れ、又は遅延させることを主要な目的としないこと。
(2)買収され、合併され、又は分割される部分の資産又は持分の比率がこの通知所定の比率に適合すること。
(3)企業再編後の連続する12か月内に再編資産の元来の実質的経営活動を変更しないこと。
(4)再編取引対価における持分による支払いにかかわる金額がこの通知所定の比率に適合すること。
(5)企業再編において持分による支払いを取得した原主要出資者は、再編後の連続する12か月内に、取得した持分を譲渡してはならないこと。
以上の5つの要件になります。
まず、最初の「合理的な商業目的を有し、かつ、税額の納付を減少させ、免れ、又は遅延させることを主要な目的としないこと。」という要件は内容は理解できますが、実際にはどのような方面から判断されることになるのでしょうか。
この要件については弁法第18条に判断の基準が規定されていますが、主管税務機関へ届出記録又は確認申請を提出する際に次の6つ面から説明しなければならないと規定されています。
①再編活動の取引形式。すなわち、再編活動に採用する具体的な形式、取引の背景、取引の時、取引の前後の運営方式並びに関係する商慣習、
②当該取引の形式及び実質。すなわち、形式上の取引に生ずる法的権利及び責任についても、当該取引の法的結果である。その他取引につき実際上又は商業上生ずる最終結果、
③再編活動が取引各当事者の税務状況にもたらす可変性、
④再編当事者が取引から取得する財務状況の変化、
⑤再編活動が取引各当事者に市場原則のもとでは生じることのない異常な経済的又は潜在的な義務をもたらしたか否か、
⑥非居住者企業が再編活動に参与する状況
非常に細かい内容を書き込まないといけないことになりますね。それでは次ですが、「再編後の連続する12ヶ月」という期間の限度がありますが、この期間の起点はいつになりますか?
弁法第19条に「再編日から起算した連続する12ヶ月」と規定されています。
「再編日」とは?59号通知公布時には再編日をいつに設定するかについて、契約発効日なのか、手続き完了日なのかという疑義が生じていていましたが、弁法に規定はありますか?
あります。弁法第7条に各取引類型ごとの再編日が規定されていますが、持分取引の再編日は弁法第7条第(2)号において「持分買収については、譲渡合意が発効し、かつ、持分変更手続きを完了した日を再編日とする。」と規定しています。
「企業再編Q&A」
なるほど、契約発効日かつ持分変更手続き完了日ということは、結局は、持分変更手続完了日が基準となりますね。でもこの持分変更手続きとは、どの政府部門での手続きを指しているのでしょうか?
工商登記変更完了日、すなわち変更後の営業許可証発効日だと考えられます。また、合併、分割時の再編日が「工商登記変更完了日」と規定されています。
共通要件の中で最後の質問ですが、(5)号の「原主要出資者」とは誰を指していますか?
弁法第20条において、「従前に譲渡企業、又は被買収企業の20%以上の持分を保有していた出資者をいう」と規定され、20%未満の出資持分保有者は原主要出資者から除外されることが明らかにされています。
(次回に続く…)

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