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『The Lawyers (ザ・ローヤーズ)』(2009年10月号)掲載
[ 特別インタビュー ] 弁護士法人キャスト代表弁護士・村尾龍雄氏に聞く
中国ビジネスの新潮流に乗りキャストグループが構想する新たなる展開

2010.01.03

村尾龍雄 弁護士インタビュー

※下記コンテンツは、『The Lawyers (ザ・ローヤーズ)』(アイ・エル・エス出版発行、2009年10月号)に掲載された「特別インタビュー 弁護士法人キャスト 村尾龍雄氏に聞く 中国ビジネスの新潮流に乗りキャストグループが構想する新たなる展開」の記事を、アイ・エル・エス出版様の承諾を得たうえで抜粋したものです。

中国法務分野のトップランナーに聞く、中国ビジネスの現在

1993年の憲法改正(計画経済が廃止され、競争を内実とする社会主義市場経済が登場)以来、急速に法整備が進められ、ビジネスの分野においても目まぐるしい変化を見せ続ける中国。弁護士法人キャスト代表の村尾龍雄弁護士は、そんな大国の転換期と並走して走り続ける、我が国の中国法務におけるトップランナーのひとりである。

同氏が弁護士法人キャスト糸賀(現、曾我・瓜生・糸賀法律事務所)から分離し、新たに弁護士法人キャストを開設してちょうど1年。法務分野にとどまらないユニークなサービスを展開して話題を呼ぶ村尾弁護士に、中国ビジネスの現在と、キャストグループの新たなる展開についてお聞きした。

「走出去」戦略を受けて急増する、中国マネーによる日本企業買収

安価な人件費と巨大なマーケットを目当てに、すでに中国には数多くの海外企業が参入していることは言うまでもない。そのように、中国マーケットのポテンシャルに群がる外資を呼び込む「引進来」戦略から、巨額の資本を元手に中国企業自体が外資獲得のために海外へと進出する「走出去」戦略へと、中国ビジネスの潮流は2002年に大きく舵を切った。

しかし、その牽引役と目されたウイグルの徳隆集団が、盲目的な海外投資を行った末、2004年には経営破綻。これにより政府の民間企業に対する「走出去」奨励は時期尚早との認識が生まれ、しばらくの間、国有企業による資源確保目的の「走出去」事例のみが耳目を集めることとなった。

ここに変化が生じたのは胡錦濤・温家宝体制となって初めて開催された2007年10月の第十七回共産党大会。ここで政府によって再び「走出去」戦略の重要性が確認され、国有企業のみならず、民間企業に対しても「走出去」を積極的に承認する姿勢が生まれた。

とはいえ、その翌年の2008年9月にはリーマンブラザーズの経営破たんを契機とする金融危機が勃発。中国政府が推し進めようとしている「走出去」戦略は、またしても期を逃すのだろうか?

「特に中国の輸出型企業は確かに金融危機で大きなダメージを受けました。しかし・・」と、村尾氏は続ける。「国内で確実にマーケットシェアを伸ばしてきた企業や、輸出型でも例えばケミカル素材メーカーの一部などコスト競争力が強く、世界で高いマーケットシェアを握る企業は、それほど大きな痛手は受けてはいません。さらに、中国には、世界的に見ても潤沢な資金を持つ、国営やシンガポール系のファンドなどが沢山あります」

村尾氏は、中国マネーによる日本企業への投資が今年あたりから加速すると見ている。「それも近時話題となったラオックスのような10億円単位のロットではなく、100億円単位の投資も登場するでしょう。我々のクライアントである中国企業にも、この規模での潤沢な資金を有するところがあり、欧米メーカーの買収と並行して、日本の東証一部上場企業の買収にも興味を示すところも出てきました」

中国企業が日本企業に照準を定める大きな理由は、日本の高い技術力とブランド力にあると村尾氏は指摘する。「たとえば食品に興味を持つファンドや企業なら、食品企業を買収して日本のマーケットを手に入れたいというよりも、食の安全性や環境に配慮する技術といった、日本企業の有する技術力に目を付けているわけです。特に国内で大きな問題になっている食品に関しては、安全、安心を保証する日本企業のブランド価値は相当に高いものがありますからね」

しかし、中国側は日本で禿鷹的に扱われることを敬遠するため、敵対的なM&Aの手法を使うことは少ないだろうとのことだ。

「彼らは日本側の強い反感を買わないように、細心の注意を払いながら「いい形」で日本に入る努力をする傾向があります」

例えばまず香港に投資会社を作り、そこを通じて日本にビークルカンパニーをつくり、ここを起点として日本企業買収を行うことを検討する中国企業も登場している。

「中国系ですが、香港を媒介とすることで大陸の色彩を希薄化させ、しかも買収母体はあくまでも日本企業であるという体裁をとり、大陸から直接のクロスボーダー案件にすることを避ける。そういう投資形態をとるところもあります。また、買収対象となる日本企業の従業員感情への配慮も深いと思います。」と村尾氏は話す。

アメリカをはじめとする欧米諸国が未だ金融危機の後遺症に苦しむ中、中国を中心とするアジアマネーを呼び込みたい日本企業と、日本の技術力とブランド力を本国に持ち込みたい中国企業。なお初歩的段階ではあるものの、すでにいたるところで、日中間の高度な駆け引きが展開されているのだ。

法務分野における中国市場の変化に、対応するための新たなる体制

中国法務の分野において、これまで日本の渉外法律事務所は、日本メーカーが中国に進出する際のサポート、つまりは工場の設立や運営、撤退時の清算や解散といった業務を中心に躍進を遂げてきた。

しかし、「ここ2年ほどでその状況は大きく様変わりしています」と村尾氏は語る。

「現在では日本本社が直接関与することを余儀なくされるよほど巨額のマネーが動く場合や複雑な問題を内包する案件でない限り、そういった比較的簡単な業務は、タイムチャージを安く設定する中国律師が日本の弁護士の関与を経ることなく現地限りで十分立派に処理します。仕事は問題なくこなせてコストは安く、しかも彼らは流暢な日本語を話すこともできる。そういった中国律師は今後の中国ではさらに増えるでしょうから、我々としてはとてもそんなところで競争はできません」

無論、このような状況の変化は、中国法務を得意とする従来型の渉外法律事務所にとっては、死活問題になりかねない。しかし、村尾氏が代表を務める弁護士法人キャストは、変化する市場ニーズを読み解き、すでに新たな潮流に乗り始めている。

「たとえば先ほども言ったように、これから中国企業の日本への進出が活発になれば、自ずと中国企業に対して中国語で中国法との比較法の観点から日本法を説明する必要が増えてきます。このような業務をこなせる日本の弁護士はそう多数いませんから、ここでは我々の長所を生かせると思います。また、日中両国の法律、会計、税務の論点が交錯する複雑な論点を内包する問題も急増しており、こうした問題について検討すべき論点を抽出して、ワンストップで効果的なソリューションを提示できるところは、それが日中いずれの法律事務所であれ会計事務所であれごく僅かであり、我々の強みを発揮できる分野だと認識しています。他にも中国や香港で上場を考える日本企業からの相談や、日本法、大陸法、台湾法、香港法が交錯する法務分野など、より複雑でレベルの高い分野こそ競争が少ないブルーオーシャンであり、そこに最大のチャンスがあると考えています」

これまでグループ内に抱え込んでいた中国の上海市世民律師事務所の切り離しをはじめ、11月1日よりキャストグループは新体制へと移行することが決まっている。

「大陸6拠点、香港1拠点のコンサル会社を含めた人数はオールスタッフで120、30人程度に一旦縮小します。中国律師をすべて自前化しようとすれば、結局、日本語のコミュニケーション能力以外、突出した専門分野を持たない、高コストの集団を抱えることとなり、新しい時代の日中間のディールに対応することができなくなるリスクがあります。そこで、グループ内で抱える中国律師は必要最低限とし、今後は真の意味で高度な専門性を有する外部の中国律師と提携し、クライアントの要求レベルに応じてベストのチームを組める体制をつくります。この文脈では、先に述べた簡単な案件については、日本の弁護士は一切関与せずに、合理的な費用水準の中国律師に紹介するだけという場合も増えるでしょう。国内においても急速に日本の弁護士を拡大する意向はなく、毎年2、3人の新人を採用し、丁寧に育てていく方針です。我々がオーバーフローするような状況があるとすれば、私の出身であり、弁護士として育てていただいた大恩のある大江橋法律事務所や、現在でも多々お世話になっている曾我・瓜生・糸賀法律事務所の優秀な先生方に助けていただくことをお願いすることで切り抜けていけばよいと考えています。」

経営者としての過去の反省から選択した、少数精鋭というスタイル

「新体制では少数の人員で大きな利益をあげることに重点を置く」と語る村尾氏が、少数精鋭のスタイルを選ぶ背景には、日本の渉外事務所がこぞって大規模化することへの危惧がある。

「縮小する日本のマーケットのなかで、現在すでに確固たる地位を築かれ、揺るぎない経営基盤を確立されているビッグフォーや、大江橋法律事務所等、これに続く若干の超一流事務所以外に、これ以上200人、300人規模の法律事務所が増加しても、日本企業がそれを支えるだけの仕事を不断に供給できるとは思えないのです。さらに言えば、金融危機などの何らかの原因で、一時的であれ仕事が減ることは必ずあります。我々も2003年の新型肺炎(SARS)、2005年の反日デモ、2009年の新型インフルエンザなど中国への出張禁止令の影響で、単月ベースで少なくない赤字を計上することもありました。大規模な事務所だと毎月のキャッシュアウトも莫大ですから、経営を維持するためには必死で仕事を取ってこなければならない。たとえばビッグフォー等の優秀な弁護士であれば、仮に仕事が減少することがあったとしても、元々が突出して優秀な訳ですから、覚悟を決めて従前ならば相手にしなかったようなクライアントや中小規模のディールのところまで自ら降りれば、必ずや一定の仕事量を確保することができます。しかし、ビッグフォー等がそういう行動を開始することがあり得るとすれば、その反動で当該クライアントや当該ディールを担当していた他の中小規模の事務所の仕事量が急減する結果となるでしょう。そうすると、どうしても食いっぱぐれてしまうところが出てきてしまう。そこに我々が絶対に含まれないと断言する勇気は私にはありません。そもそも経営者が人を雇うということは、そのスタッフだけでなくその背後にいる家族の生活にも責任を負うということでしょう。我々はスタッフにも継続的な能力向上を強く求めますが、その一方で経営者である我々が事務所としての継続的な成長や少なくとも安定的な経営維持を約束できなければ失格でしょう。そこで、我々は「身の丈」経営を常に意識しようと決意し、最低限の経営維持のために無理に仕事を追い掛けて疲弊し切ってしまうようなことがないようにしたいと思うのです」

さらに、新体制には、大江橋法律事務所から独立後10年間の反省を踏まえ、「同じリスクを共有できる仲間を増やしたい」という想いもあると言う。

「前事務所にしても、瓜生先生や曾我先生をはじめ、代表パートナークラスの先生方とは今も良いお付き合いをさせていただいていますし、同じリスクを共有してきたという意識もあります。しかし、すべてのスタッフとそのような共闘関係を築き、同じ価値観を共有することは、規模が大きくなると難しくなります。だから次の10年では、スタッフ同士の心の繋がりを強化しながら、たとえ嵐がきても手を携えて乗り越えられるような仲間を、ゆっくりと増やしていきたいと考えているのです」

弁護士業を起点にビジネス領域を拡大し、新たな弁護士像を創造する

自らを「弁護士であり、税理士であり、コンサルティング会社の社長」と公言してはばからない村尾氏。法曹界において常に異端と捉えられるそのスタイルの根底には、「次代を担う若い弁護士たちに新たな弁護士像を提示したい」という強い想いがある。

「弁護士であることを起点に起業するといったこのスタイルは、色々と批判を受けるかもしれません。ですが、それは覚悟の上です。では、なぜ私が様々な事業にトライするのかと言えば、今後経済的に一層衰退し、世界から全く注目されなくなる可能性のある日本における、自分を含む弁護士業界の未来に対する強い危惧があるからです。この先、経済は斜陽化する一方で、弁護士数だけが急増していったときに、伝統的な弁護士業を改革もせずに漫然とやっているだけでは、弁護士がこれまでのような生活を維持するのは難しくなるに決まっているというのが私の考えです。この傾向は大都市圏と比べてより早く経済的に疲弊する地方都市でまず顕在化し、しばらくの後に大都市圏にも波及するでしょう。「軒弁」や「即独」という用語が登場している現在、多数の弁護士についてこの傾向が誰の目にも明らかになるときは一般の予想よりも遥かに早く訪れるのではないでしょうか。こうした状況の中では今まで誰も見たことがないような、しかし日本の社会が必要とするサービスを提供する弁護士の業務改革事例を何人かの弁護士が提示していかなければならないはずです。誰かが弁護士倫理とも合理的に調和する実施例を示せば、多くの弁護士が自ら業務改革に乗り出す勇気を与えられるかもしれません。」

過去、現在、未来における自らの成功や失敗、何を成し得て、何ができなかったかということも含めて、「弁護士業界にそのひとつの実施例を提示したい」と村尾氏は話す。

三通規制の撤廃に向けて動く台湾が、今後の中国ビジネスの鍵を握る

現在、キャストグループの業務の約9割が中国関係である。

「従来型の業務だけではなく、中国企業の日本進出のサポートや、中国企業が日本で設立した企業の税務顧問など、業務内容は多様化しています。コンサルティング会社の方では、香港を起点に企業再生案件などに自社で100万米ドル単位での投資も始めていますし、昨年から開始した日中両国間でのM&A取引に関するFA業務も複数こなし、成功報酬を頂戴できる例も増えてきました。現在はこれに加え、日本企業が必要とする投資家をアジア各国で発見し、実際の投資規模に応じて手数料を頂戴するというビジネスにも参入しています。従前のタイムチャージベースでの仕事は大事にしながらも、小規模の人数で比較的大きなリターンが見込めるプロジェクトを見定め、他人様から集めたお金ではなく、あくまでも自分たちがリスクを負うことができる「身の丈」の範囲で、企業再生案件などに投資する。こうした行動には、そこから日中クロスボーダーでの法務、会計、税務など、本来の仕事を呼び込む商機を増やすという狙いもあります」

一方で、馬英九政権下で通信、通航、通商を厳しく規制する三通規制が撤廃方向にシフトする台湾にも、村尾氏は注目している。

「台湾や中国の提携事務所と協力して、中国や日本の企業による台湾企業の買収や、中国企業の台湾での上場をサポートする仕事などに関与できる機会も増えるでしょう。しかしそれ以上に、大陸人に比べて日本人のメンタリティをよく理解してくれる台湾の人たちには、中国企業と日本企業を結ぶ架橋機能を期待しているのです。歴史上の経緯からか、台湾の人は日本人とメンタリティにおいて非常に親和性が高いですから。すでにこうした分野に興味を持つ台湾のファンドなどにも接触しており、今後は彼らとも連携し、色々なことにチャレンジしようとも考えています。ここでも伝統的な弁護士業務だけではなく、提携先の協力も得つつ、FA業務や投資家探索業務にも関与できる機会を見付けることができればと思っています。

もちろん、こんなことは我々のような香港、台湾を含めた中国ビジネス全般に強い専門家集団でなければできません。とにかく、我々の売り物はそれしかないわけですから、自らの強みを生かしてどんどんチャレンジを広げていきたいですね」。

強い信念で突破した司法試験。弁護士としての確固たる矜持

前述してきた通り、弁護士という枠に囚われることなく、自らのビジネス領域を拡大し続ける村尾氏だが、「弁護士という職業に対する思い入れは人一倍強いと思います」とも語る。

学生時代には1年生で南米放浪をし、帰国後2年生の4月から体育会の陸上部に入部。5年生の7月に退部するまで、800メートルの正選手として陸上競技にのめり込んだという経歴を持つ村尾氏は、大学には6年生まで籍を置き、卒業後、神戸市役所に入り、勤務後3年目で司法試験に合格した。

「我々の時代は特に、弁護士になろうと考える人なら誰でも、心の底には社会正義の実現という理想を抱いていたのではないでしょうか。私の場合も、そういった信念を持っていたから、働きながらでもあきらめずに私にとってはとても難しい試験にチャレンジして通ることができました。陸上部で毎日練習して毎日バイトもやりながら現役合格でもしていたらどうであったかはわかりませんが、大学6年生と神戸市役所勤務の合計4年間、もしかすると合格できないのではないかという心理的プレッシャーや仕事との両立に苦悩しながらようやく手に入れた弁護士という職業には、やはり特別な思い入れがあります」

村尾氏が中国法務の分野へと進出する足がかりとなった大江橋法律事務所から独立し、今年8月で満10年が経過した。

「大きな看板も背負わず、私と二人の秘書だけで立ち上げた事務所からここまできたわけですが、特に収益の面では、思い描いていた以上の成果をあげることができたという1つの達成感はあります。独立直前には誰からも相手にされなかったらどうしようかと真剣に悩んでいましたから。ですが、当たり前のことながら、金を稼げば偉いなどという気持ちはまったくなくて、稼いだ金で社会に対して何を為すべきかが大切だと常々思っています」

新体制のスタートに合わせ、「弁護士業や自分たちの行いを通じて社会に善を為す努力をすること」を、村尾氏は社是にしようと考えている。

「善は多義的であって、単純に定義するのは難しいですが、たとえば我々の事務所の若い弁護士たちには、中国ビジネス案件だけでなく、弁護士会の仕事や国選弁護、一般法律相談、個人事件なども積極的にやるように言っています。先輩の国内弁護士や個人のお客様の人生相談から学ぶことも多いですし、それは我々が個々の人生観にしたがって善行を積む基礎を形成してくれると確信するからです。今私は44歳ですが、あと10年もしたら、社会的弱者の救済になるような刑事弁護や、今もときに地方公共団体から相談を受ける都市計画を中心とした行政法案件をやりたいなあという想いがあります。もともと大江橋時代も独立後の数年間も国内弁護士としても活動していましたし、なかでも人の人生に深く関与する刑事の仕事が実は大好きなんです。弁護士以外を選択するならば、絶対に検察官がいいと思っていましたし。」。

村尾氏が体現して見せる新たな弁護士像は、これからの弁護士業界を生き抜くための大なヒントを提示しているのではないだろうか。

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