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しなやかに“ハードワーク”する女性総経理
会計チームの舵取り役として中国の現場で奮闘

2009.12.09

永野弘子 税理士インタビュー

キャストコンサルティング代表取締役副社長とキャストコンサルティング(上海)有限公司董事・総経理を兼務する永野弘子。中国の日系企業では数少ない女性総経理。中国駐在はすでに5年目。上海を拠点に日中を忙しなく往復する。そんな言葉が並べば誰もが“女強人”(中国語でキャリアウーマン)を思い浮かべるだろうが、永野はそうした典型とは一線を画す。片意地を張って男性と張り合うことも、部下を強く叱ることもない。理知的で、女性ならではのしなやかさを大切にする――。 そんな永野は、キャストグループの会計チームの舵取り役だ。最近中国で税務に焦点が当たり、会計チームの重要性が増しているなか、「お客様に満足していただくのがわれわれの基本」と永野は現場の最前線で難易度を増す顧客企業の悩みの解決に奔走している。総経理として、ひとりの女性として、中国で奮闘する永野のこれまでの歩みやビジネスへの思い、これからの夢に迫った。

北京留学で見つけた“目標”

「ずっと鹿児島にいるものだと幼少の頃から思っていました。今でも時々考えるんです。あのまま鹿児島に残っていれば、平々凡々な人生を送っていたんだと」と永野弘子は話す。鹿児島に生まれた永野は、鹿児島大学法文学部法学科を卒業すると国家公務員試験に合格し、鹿児島大学の職員となった。その後、ある出来事をきっかけに東京に出て再就職。シンクタンクなどに勤務し、節目の30歳を目前に北京へ語学留学する。

「留学の目的は息抜きでした。中国を選んだのはたまたまで、強いて言えば高校時代に集団読書した井上靖の『敦煌』の影響でしょうか。自主的にあれだけ勉強したのは初めてでした」(永野)

猛勉強の甲斐もあり、わずか1年の留学期間でHSK(漢語水平考試)の高級、8級に合格した。もっとも、永野がこの留学を通じて手にした成果は中国語力だけではない。留学期間中「中国語を生かした仕事に就きたいが中国語だけではダメ。何か資格を取ろう」と、その後の進路を決定付ける目標を見つけた。

帰国した永野は、仕事をしながら勉強ができる資格として税理士を選択。大阪の中国系貿易会社に勤務しながら、週5日、退勤後に専門学校に通い、税務の勉強を続けた。その貿易会社で永野は、中国税務の第一人者である公認会計士、三戸俊英に出会う。

「勤務していた会社の顧問事務所が三戸俊英事務所でした。しばらくして三戸先生から、『うちに来ませんか』と誘っていただきました。税務の勉強ができ、さらに中国語も生かせるチャンスと、迷わず転職しました。私にとって三戸は、中国と税務の世界へ導いてくれた恩人です」

広州分公司代表として中国へ赴任

永野弘子 税理士インタビュー

永野が5年を費やし、税理士試験に合格した2000年、三戸俊英事務所は転機を迎える。その年の2月、現キャストグループCEOの村尾龍雄と三戸は共同出資でコンサルティング会社、キャストコンサルティングを日本で、同年4月にその現地法人、キャストコンサルティング(上海)有限公司を上海で設立した。その後、永野の仕事は中国案件が増えていく。

「2000年以降、中国に関係する仕事が多くなりました。三戸の中国案件のアシスタントや翻訳業務、日本のお客様と中国の弁護士との橋渡し役などを経験しました」

その間、キャストグループは日系メーカーの進出ブームを追い風に業容を急速に拡大していった。03年にはキャストコンサルティング(上海)有限公司の蘇州分公司、04年には同社北京分公司を設立した。

そして05年。同社広州分公司の開設に当たり、その代表として永野に白羽の矢が立つ。北京への語学留学から13年、三戸俊英事務所入所から9年、税理士歴5年。中国専門家として、また税理士として油が乗り始めていた永野を、キャストグループCEOの村尾龍雄は迷うことなく指名した。「日本で三戸の下、5年ほど中国案件にかかわっていたため、広州赴任に際しては一切怖気づくようなことはありませんでした。これまでの蓄積を中国でどれだけ生かせるか、とても楽しみでした」というのが当時の永野の心境だ。

05年の広州は、ホンダと広州汽車の合併会社、広州本田汽車の業績が絶好調で、トヨタ自動車の進出が決まるなど、自動車産業を中心に経済が上り調子にあった。こうしたなか、広州分公司のビジネスは好調に滑り出し、顧客企業を順調に増やして行った。永野と中国弁護士のふたりで始めた広州分公司は、その後スタッフ10人の規模にまで拡大した。

「広州では、会社の設立案件や会計のアウトソーシング業務など幅広く手掛けました。私の根っ子は税理士ですが、中国ではコンサルタントの立場で法務、会計・税務関係なくお客様のお話を伺っています。日本で中国業務のイロハを勉強していたので、それを広州の現状にローカライズしながら目の前の案件に精一杯取り組んでいきました。運にも助けられ、業績は順調に伸びました」

いかに効率良く質の高い仕事を行うかを使命に

永野弘子 税理士インタビュー

広州分公司でのマネージメントを評価された永野は、07年にキャストコンサルティング(上海)有限公司総経理に、08年には同社董事にとトントン拍子で昇進していく。中国の日系企業では珍しい女性総経理を務めていることについて、永野は次のように語る。

「たまたまそのポストが必要になった際、私が最適な人材だったのだと思います。私は昔からキャリア志向だった訳ではなく、むしろ男性に対抗し、角ばって生きていくのが苦手なタイプです。女性ならではのしなやかさを大切にしながら、スタッフをどう動かし、いかに効率良く質の高い仕事を行うか――これが私の役目だと思っています。男性中心のクライアントのなかで、女性の特性も上手く活用しながらお仕事ができたらいいですね。今の課題は総経理として、もう少し貫禄をつけることでしょうか」

08年まで順調に成長軌道を描いてきたキャストグループだが、リーマンショック以降、中国における日系企業の動きはしばらく鈍り、その影響を免れなかった。しかし最近では、M&A(企業の合併・買収)のデューデリジェンス(事前調査)が動き出し、内部監査の仕事も増えている。

「以前であれば会社設立など、比較的単純な案件が多かったのですが、最近は顧客企業からの問い合わせが複雑化しています。お客様の実務の中に入っていかないと分からないことも多く、コンサルタントもスキルアップが求められています。それだけ日系企業のビジネスが現地に入り込んできているということだと思います」

そう語る永野の表情からは、総経理としての責任感、覚悟が滲み出している。

税務に焦点が集まるなか法定監査サービスを強化

今年に入り、中国では税務に焦点が集まっている。税収不足を改善しようと、税務署が徴税強化に動いているためだ。「日系企業の税務への関心は高く、われわれがお手伝いする機会も増えています」と永野は話す。

こうした動きに呼応し、キャストコンサルティング(上海)有限公司では中国のパートナー会計事務所と組み、法定監査サービスを強化している。多くの日系企業がローカルの会計事務所を利用し監査しているが、不満は少なくない。一方、大手会計事務所に頼めば非常に割高になってしまう現実がある。そうした悩みに応えようと、同社では地元のパートナー事務所といっしょに、ローカルにはなかなかできない日本的なサービスを提供している。また監査では、法務、会計・税務のすべてのサービスをワンストップで提供するキャストグループの強みを生かし、会計だけでなく、法務や税務の問題もフォローしている。

「地元のパートナー企業とはこれまでの提携で、信頼関係を築いているところが多いです。所属する会計士や税理士のクセなども把握しながら、業務を進めています。一方、新しい提携先と組む際は、提携先のスタッフの実力を測りながら、細心の注意を払って仕事を進めています」

ストレス解消は運動と韓ドラ

永野は1カ月に1週間、税務の顧問先のケアのため日本へ出張している。中国での激務の間隙を縫っての出張だが、「まったく苦ではありません。日本の空気を吸うと中国での日頃のストレスの解消になるんですよ。昔から知っているお得意先とお会いできるのも楽しみですし」という。

平日は家と職場の往復で、土日も仕事をすることが多い。わずかなプライベートの時間を活用し、続けているのがジム通いだ。学生時代から大の運動好きで、バレーからソフトボール、テニス、ゴルフなどを経験してきた。ジム通いは日本にいた頃からの習慣で広州でも続けていたが、上海に来てからは激務のため一時中断を余儀なくされていた。それを1年半前から再開している。

ジムでのメニューは筋肉トレーニングとボクソサイズ。筋トレはトレーナーを付けた本格的なもの。ボクソサイズも10年以上続けており、ベテランの域だ。「昔から体を動かすのが大好きなんです。何も考えずに1時間ほど運動するとスッキリします。最近は背筋が鍛えられ、たまに行くゴルフでボールがものすごく飛ぶようになりました(笑)」

それからもうひとつの趣味がある。韓国ドラマの鑑賞だ。中国でも韓国ドラマが流行し、最新ドラマのDVDが簡単に手に入る。永野はこれらを購入し、中国語の字幕で楽しんでいるという。

「1年に数回、業務に余裕がある際に土日を利用してソウルまで小旅行しています。特に何をする訳でもありませんが、ドラマの延長線上で街の雰囲気を楽しんでいます」

会計チームのプレゼンスを高めたい

永野弘子 税理士インタビュー

永野はキャストグループついて、「非常に卓越した発想から生まれた集団。村尾の優れた先見性が生んだ、超効率的なプロフェッショナルチームです」と説明する。

「キャストグループで働けることがとても楽しいです。通常なら入って行けないような大きな案件にかかわれ、非常にやりがいがあります。日中の一流の弁護士、会計士、税理士、コンサルタントが集い、国籍・性別・資格を問わず対等な条件で活躍するのがキャストですが、中国の会計士は非常に優秀で飲み込みが早く、仕事をきちっとやります。また、中国弁護士といっしょに働いていると非常に勉強になります。弁護士ならではの発想でリスクを捉えるなど、われわれにはできない仕事をします。こうした優れた中国の会計士や弁護士と仕事ができるのもキャストで働く醍醐味ですね」

今後の永野の目標は、「会計チームの存在感を高めること」。世間では、村尾CEOが弁護士のため、キャストグループを弁護士集団と誤解するケースもあるが、会計チームを弁護士チームとの両輪として認知されるようにしたいという。

「われわれ会計チームは弁護士とともに動き、クライアントにご満足いただける質の高い仕事を提供していると自負しています。しかし、こうした仕事はなかなか表に出せるものではなく、会計チームはどうしても日陰の存在になりがちです。今後、会計チームを弁護士チームとの両輪として見ていただけるよう、セミナーなどで積極的にアピールできたらと思います」

「これまではとにかく前に向って突っ走ってきました」と話す永野。現在も監査業務の充実や日本の税理士法人キャストの人材育成など、目の前には取り組むべき課題が山積している。しかし、永野の表情はとても明るい。

「キャストグループはこれまで10年の歴史で蓄えてきた経験、ノウハウを活用し、まだまだ成長して行きます。それに貢献していくのが私の喜びです。今後は、会計チームの次世代のリーダー育成にも取り組みたいです。また、キャストグループのスタッフ一人ひとりが幸せになれるような土台作りにも挑戦したいですね」

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